若い頃には考えなかった病院のこと|田舎の一軒家を手放して思うこと

暮らしを整える

私たち夫婦が家を買った30年前、近くにどんな病院があるかなんて、ほとんど考えていませんでした。

当時の私たちにとって大事だったのは、今より広く、気兼ねなく暮らせる家を持つことでした。

結婚してからは社宅で暮らしていましたが、古くて狭く、周りに気を使うこともありました。

「そろそろ引っ越したい」

そう思っていたときに見つけたのが、田舎の一軒家でした。

夫は遠距離通勤になりますが、価格も手頃で、私たちはその家を買うことにしました。

それから約30年。

まさか病気をきっかけに、その家を手放すことになるとは、当時は想像もしていませんでした。

不便もあったけれど、田舎の暮らしは嫌いではなかった

田舎暮らしには、不便なこともたくさんありました。

虫が多く、野生動物が出ることもあり、怖い思いをすることもありました。

自治会の付き合いや役割を負担に感じることも多かったです。

それでも、田舎の暮らしが嫌いだったわけではありません。

まわりの景色や、季節が変わっていく様子を身近に感じながら暮らせることには、とても満足していました。

不便さはあっても、そこが自分たちの家でした。

住宅ローンもありましたし、引っ越すことは考えていませんでした。

このまま、ずっとここで暮らしていくのだろうと思っていました。

乳がんになって初めて「病院が近くにない」ことが問題になった

そんな暮らしが大きく変わったのは、私が乳がんになってからです。

私は自分で胸のしこりに気づき、病院を探しました。おそらく乳がんだろうと感じていました。

ですが、市内には乳がんの治療をしている病院はありませんでした。

仕方なく、電車を乗り継いで大きな病院へ行き、検査を受けて乳がんの診断を受けました。

その病院で今後の治療の流れを聞いたとき、毎日病院で放射線治療を受けなければならないことを知りました。

3週間連続で、平日は必ず受けなければいけないと聞かされました。

それまでにも、近所の人たちが大きな病気になると、遠くの病院まで通っているのを見ていました。

でも、自分自身が治療を受ける立場になって初めて、通院の大変さを考えさせられました。

若い頃には、病院が近いかどうかなんて家選びの条件に入っていませんでした。

病気になったらどうするか。

歳を取って車の運転が難しくなったらどうするか。

そんな先のことまでは考えていなかったんです。

30年暮らした家でも、手放すことに迷いはなかった

家を売ろうと決めたのは、乳がんの治療内容を聞いたときでした。

30年も暮らした家です。

普通なら、手放すことに寂しさや迷いがあっても不思議ではありません。

けれど、そのときの私には迷いはありませんでした。何よりも治療が最優先だったからです。

家を持ち続けることより、きちんと治療を受けられる場所で暮らすことのほうが大事でした。

夫も同じ考えでした。そして私たちは家を売りに出し、病院に通いやすい場所へ引っ越しました。

今は持ち家ではなく、賃貸で暮らしています。

賃貸暮らしになって感じる「医療が近くにある安心」

引っ越してから、医療を受けやすい場所で暮らす安心感を強く感じるようになりました。

今住んでいる地域には病院がいくつもありますし、手術と放射線治療を受けた病院にも定期的に通っています。

病院があるというだけではありません。

選択肢があることで、自分が信頼できると思う病院を選ぶこともできます。

以前は、病院が遠いことを当たり前のように受け入れていました。

でも今は、体調に不安があるときに受診できる場所が近くにあることが、暮らしの安心につながっています。

家の広さや景色も、もちろん大切です。

けれど60代になった今、若い頃とは「住みやすい場所」の意味が少し変わりました。

30年前の自分に伝えたいこと

もし30年前、家を買おうとしている自分に声をかけられるなら、こう言いたいと思います。

「歳を取っても、その家に住めるかを考えたほうがいいよ」

若い頃には、自分が病気になることも、歳を取って今までできていたことが難しくなることも、なかなか想像できません。

私自身もそうでした。あのときの家選びが間違っていたとは思っていません。

田舎の家で過ごした30年間には、子供を育て、きれいな景色を眺め、季節の移り変わりを感じたりした、楽しい時間がたくさんありました。

ただ、人生が長くなれば、暮らしに必要なものも変わっていきます。

これから家を買う方や、今の家にこのまま住み続けるか考えている方には、家の値段や広さだけでなく、

  • 病院へ通いやすいか
  • 歳を取っても買い物に困らないか
  • 車に乗れなくなっても暮らせるか

そんなことも、少しだけ考えてみてほしいなと思います。

先のことをすべて予想するのは無理です。

それでも、「今の自分たち」だけではなく、「歳を重ねた自分たち」の暮らしを想像してみる。

それが、これからの住まいを考えるときの一つのヒントになるのではないでしょうか。

そして、もし暮らしに合わなくなったときには、住まいを変えるという選択肢があってもいい。

今の私は、そう思っています。

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